2015/05/06

カセットコーダー SONY TCM-450

実家の壊れたテープレコーダーを修理した。ついでにレビューしてみる。 実家で歌の録音などに使っていたそうだ。 この手のテープレコーダーは、現在日本ブランドでは販売されていない。SONYのウォークマンは2010年に生産終了し、その後細々生産していた他のテープレコーダーも2013年に終了してしまった。その後は中国製などの粗悪品しか市場にないため、SONYのテープレコーダーはヤフオクなどで高額取引されるようになったようだ。実家でも設計も製造も中国純正のテープレコーダーを1台買ったようだが、音がひどく、トラブルも多かったため、使えなかったそうだ。基板設計だけで成立するデジタル機器と違って、この手の複雑なメカはノウハウが物を言うので、簡単に同等のコピーはできないということか。

SONY TCM-450 仕様

定価 8640円 (実売価格5000円程度)
2013年1月生産終了
中国製
トラック方式 コンパクトカセットモノラル
スピーカー 直径 36 mm
テープ速度 4.8cm/s(標準モード)、2.4 cm/s(2倍モード)

周波数範囲
250Hz~6,300Hz (テープ速度 4.8cm/s、ノーマルテープ使用時)

入力端子
マイク(ミニジャック/モノラル)(プラグインパワー対応)
最小入力レベル 0.2mV インピーダンス 3kΩ以下のマイク用

出力端子
イヤホン(ミニジャック/モノラル)負荷インピーダンス 8Ω~300Ω

実用最大出力 450mW(DC時)スピーカー
スピードコントロール可変範囲 約+30% ~ 約-20%(テープ速度 4.8cm/s)
電源 DC 3V、単4形乾電池 2本使用
電池持続時間 アルカリ 録音15H、再生8H(スピーカー)
電池持続時間 マンガン 録音5H、再生2H(スピーカー)
最大外形寸法 約 86.3 mm × 113.4 mm × 28.9 mm(幅 / 高さ / 奥行き)最大突起部含む
質量 本体 約 173g
質量 使用時 約 229g(乾電池 2本、カセットテープC-60HF を含む)

カセットが見える面。主に表面はアルミ製で、わりとしっかりしている。名称が「CASSETTE-CORDER」なのね。確かSONYの商標だったかな。

このTCM-450の最大の特長が36mm径の大出力スピーカー。DC駆動であれば450mWとあるが、乾電池駆動では不明。それでも、それなりの音量で鳴ってくれるので、内容の確認なら問題ない。 最近のICレコーダーのおまけスピーカーはちょっとうるさいところでは役立たずだが、このTCM-450は使える。

操作はガチャガチャとしたメカ操作で、最近のタクトスイッチを押すだけのデジタルチックな機器と違って手ごたえがある。PCが普及してから、ソフトウェアにしても、メモリオーディオにしても、基本的にはこの物理的なカセットの操作性をお手本にしていると思うと、なかなか感慨深いものがある。

ボタンを押さなければ、待機電力もなく、電源OFF状態。 録音や再生はたった1回だけボタンを押せば実行される。電源ボタンやら、設定やら、ややこしい手続きは何もない。このストレートな操作性は素晴らしい。 この手軽さはデジタル機器では味わえない。

一時停止はスライドスイッチになっている。 表示はすべて日本語で、高齢者にも扱いやすい。ウォークマンシリーズのようなファッション性は皆無なので、実用一点張りという割り切った感じは好き。

ボリュームももちろんアナログ。やっぱりこういうタイプは調整が楽でいい。瞬時に適正音量にすることができる。

スピードコントロールは意外と遊べる。2倍モードと組み合わせたりすると、手軽に面白いことが実現できて楽しい。約+30% ~ 約-20%

標準/2倍モードスイッチ。テープスピードを1/2(2.4cm/s)にすることができる。

V・O・R は一定以上の音量になったら録音をするという、やや近代的なスイッチ。試してみたが、ちゃんと機能した。人が近くで喋るぐらいの音量になると、録音がスタートという具合。 外部マイクも利用可能。イヤホン端子はモノラル出力。

テープカウンターもある。最近はPC上で再現したテープカウンターの方が見る機会は多いかもしれない。改めて観察すると、このちっちゃいカウンターが本当に動いているという感動があったりもする。

窓からはテープ残量がおおよそ確認できる。

角にモノラルマイクがある。カバーはプラにめっき処理なので、めっきは剥がれてボロボロ。個人的にプラにめっきは歓迎できない。こういう部分は黒プラ塗装レスでいいよ。

開けたところ。ヘッドが手前にあるので、クリーニングはやりにくい。

注意書きもシールではなく印刷されている。

ストラップ取付部、DC端子、電池を入れる部分。

電池を入れる蓋はしっかり作られている。接点はなんと金めっき? 単4形電池が2本入る。

テープについて

現在カセットテープは国内では作られていないようだ。かつての日本ブランドは製造からは撤退していて、今は韓国製で製造されたものなどを自社ブランで販売しているにすぎない。今回テスト録音用にテープがなかったのでマクセルのURを買ってみた。

URはマクセルのノーマルテープ(TYPE I)の中でも一番安いもの。生産はテープが韓国のSKC製で、組立はインドネシアだそうだ。4巻セットで374円だった。1本93.5円。安いのか高いのか判断が難しい・・・



テープの厚みについて

80年代はテープをよく使っていたが、46分か60分のテープしか買わなかった。 その理由はテープの厚み。90分以上になると薄くて耐久性が落ちるから。ひどいものではテープがワカメのようになってしまう。 改めて調べてみると、テープのベースの厚みは以下のように決まっていた。

60分 13.5ミクロン
90分 7.5ミクロン
120分 4.5ミクロン

厚ければ伸びたり、変形が起きにくい。60分より短い時間のテープは、みんな13.5ミクロンのようだ。 ちなみにテープ幅は3.81mmで記録するトラック幅はステレオの場合、1トラック0.61mmとなっている。

テープのたるみをなくす

テープの説明には、以下のように、たるみをとるために、「鉛筆などで巻き上げてください」とあった。

それで思い出したのが、ゼブラのマッキー極細を使って巻き上げる方法。子供のときによくやっていた方法。 このペンの細い方のキャップって、変な形をしている。

どう考えても、巻き上げるための形状にしか思えない。あまりにもぴったりとフィットするのだ。

そして、このペンの名前は、マッキー、まっきー、巻ー! そういうことか! テープのために生まれたペンだったのか・・・


試しに録音をしてみる

このモデルは完全モノラルなので、再生も録音もモノラル。 ステレオ録音されたテープを再生する場合は、ひとつのヘッドで、両チャンネルを読み取るので、強引にミックスされたモノラルになる。音楽鑑賞用としては辛い。 逆にモノラルのよいところは、テープの記録幅がステレオ(1トラック0.61mm)の2倍(1トラック1.22mm)取れるので、音質や、安定度でメリットがあると思われる。 また2倍モードが存在する理由もここにあるのかもしれない。 テープの音質は秒当たりの記録面積に比例すると仮定するなら、スピードを1/2に落としても、ステレオ録音の片チャンネルと同等の音質が得られるという理屈になるので。

TCM-450を卓上に置いてギターを録音してみた。

テープならではのヒスノイズが目立つ。マイク性能もよろしくなく薄っぺらい音。そして内部メカのノイズも一緒に録音されてしまう。 また常時コンプレッサーがかかっている。小さい音量は大きくなり、大きい音量は小さくなるというもの。こうすると一定音量になるので人の声などは聞き取りやすくなる。 下の波形(上段がTCM-450で、下段がPCで録音したもの)を見ると明らかだが、上記の録音は唐突に最大音から入るので、冒頭だけ音量圧縮が間に合っていない。その後は一定音量という具合。常時コンプレッサーがかかるような機器は、強弱を意識した音楽の録音には向いていない。でも語学学習とかでは、これで十分だろう。

下は比較のために同時にSM57+Focusrite 2i2+PCで録音したもので、コンプレッサーはかかっていない。こちらは当たり前だが今時のクリアさで、しっかりと低音も録音できている。


外部マイクでの録音

さらに外部マイクとして自作のWM61-Aをつないで録音してみた。内部のメカノイズを拾いにくくなり、マイクの性能もよくなったためか、ちょっとクリアになっている。

録音して思ったことは、このTCM-450は、声の録音と、それを内臓スピーカーで再生することだけを考えて設計されているということ。 ありのままを録音するのではなく、何を言っているのか、なるべくクリアに分かるようにチューニングされている。 具体的には、中低域をばっさりと切って、スッカスカにして、過剰にコンプレッサーをかけることで、小型スピーカーでも聞き取りやすく鳴るように工夫している。 これを音楽録音で使うのはよろしくないと改めて思う。実家では歌の練習に使っていたようだが、それはやめたほうがいいよ。 あくまでもボイスメモ的な使い方が正解だろう。


カセットテープ&レコーダーはいつまで存在できるか

コンパクトカセットはフィリップス社が開発し、その規格が普及したもの。日本では1970年代から急速に広がり、1980年代がピークだろうか。1990年代にはMDに移行するような動きも見えたが、MDの方が先に消滅したという感じ。カセットテープは2000年代に入っても、細々と使われ続けている。

高性能なICレコーダーが普及した現在でも、しぶとくカセットテープ&レコーダーは売れている。しばらくは存続するだろうが、その細々とした需要の実態は高齢者ユーザーだと思うので、あと20年ぐらいが限界かもしれない。

ただ、別の動きも最近はあるようだ。音楽分野で、物としての存在感のないデータ配信が主流の現在において、カセットでもリリースするアーティストなどがチラホラ出てきている。一時のブームで終わるような気もするが、何かと手軽なテープは新たな需要を作り出せる可能性がないとも言えない。 テープは5分、10分という短いものもあるし、価格も数十円なので、ばら撒きやすいコスト。音質の悪さや、アナログならではの劣化は逆にサンプルとしては扱いやすいような気がする。 またデジタルデータと違った、何かぬくもりみたいなものがあるのがアナログの世界。古い焼けた写真を見ている感覚に近い。 レコードよりも手軽なカセットはノスタルジーに浸るには、丁度よいメディアかもしれない。

まとめ

手軽に録音して、それをすぐに聞くという使い方に向いている。ただし音質には、こだわらないというのが条件。操作性は物理的な条件がそのまま操作になっているので、ダイレクトでわかりやすい。 また、それなりの音量が出るスピーカーがあるので、イヤフォンがなくても問題なく使えるところが素晴らしい。今時のポータブルICレコーダーでこれを実現しているのはICD-LX31ぐらいかな。

音質はクリアさとは無縁だが、クリアが当たり前の現代において、ノスタルジックで、あたたかい音という言い方もできる。この音を意図的に使うというのもありだとは思う。

デジタル機器しか知らない世代にとっては、かなりインパクトのある機器かもしれない。現在のポータブルオーディオの操作性の原点はこういうところにあるので、知っておくのもよいと思えた。 また原理が見えるところもよい。テープスピードが変化すると、音がどう変化するとか、そういうことが、ダイレクトに理解できる。同じことをプログラムで再現したりしているので、そういうプログラムを作る上でも、オリジナルを知っているか、知らないかで、結果は大きく違ってくると思う。勉強という意味においても面白いサンプルだ。