音楽の録音にも対応できるICレコーダー
SONY ICD-PX440C

実家の母がレコーダーTASCAM DR-40を紛失してしまったので、急遽ボイスレコーダーを購入することにした。 紛失も考慮して、今回はエントリーモデルにした。 購入したのはSONY ICD-PX440Cというもので、TASCAM DR-40のような本格的な録音をするものではなく、ボイスメモ向け機種。 用途は、屋外での歌の大会や練習などの録音。 こういう場所では、ちゃんとしたセッティングでの録音は望めないので最近のボイスメモ機でも十分だろうと判断。 重要なのは、音量圧縮をしない自然な録音ができる機能があること。音楽の録音では、これが重要。

ボイスレコーダーの検討

歌の録音で使える安いICレコーダーということで、はじめの候補は音楽用のリニアPCMレコーダーであるZOOM社のH1。仕様もちゃんと公開されていて、それを読む限りばっちりだった。ただ以前は新品で5000円ぐらいだったのに、今は価格が2倍になり馬鹿らしく思って買うのをやめた。ヤフオクの中古品でさえも、かつての新品よりも高額取引されている。これよりも安いリニアPCMレコーダーはないので、ボイスレコーダーを検討しはじめる。

低価格のボイスレコーダーの中から最適な機種を選択するのは難しい。 メーカーも最低限の情報しか載せないし、録音サンプルもない。高級機の録音サンプルはあるので、聞かせるほどの品質ではないということなのだろう。音量圧縮をしているのか、していないのか、そういう記述が見当たらない。 そうなるとユーザーレビューを頼ることになるのだが、低価格商品のレビューはマニア層とは違うので、ロクなレビューがない。困ったものだ。仕方なくメーカーホームページから説明書をダウンロードして、そこから予測して使えるかどうか判断した。一番知りたい情報はなく、結局買ってからいろいろ試してみるしかないようだ。

SONY以外にもパナソニックやオリンパスの低価格ボイスレコーダーも検討。やはり音量圧縮については、あいまいな表現ばかりで、さっぱり不明だった。「おけいこモード」って何?という感じで、その説明は一切ない・・・ 結局一番知りたいことは判らないので、その他の機能的なバランスでSONYにすることにした。

ICD-PX440に決めた理由

音量圧縮をしない、まともな録音ができるかどうかが一番知りたかったのだが、結局その情報がない。一番困るのは強力にコンプレッサーがかかって、音圧が圧縮されること。これでは音楽録音では使えない。多くの低価格ボイスレコーダーはコンプレッサーがかかっていると思うので、この機種もその可能性が高い。ただ音楽録音モードというのがあって、説明書には録音時のエフェクトはオフとあった。多少は音楽を考慮している姿勢が垣間見れたので、まぁ使えなくはないだろうと判断してみた。実際は購入後録音して確認するしかない。メーカーの説明不足にはとても不満。 もし音楽録音用として使えなければ、即ヤフオクで売り払うつもり。

価格が5000円程度と安かったこと。1万円以上の機種をなくすとショックが大きいが、5000円ならなんとか諦めがつくというもの。

ボイスレコーダーとしては大きめ(直径28mm)高出力(300mW)のスピーカーが前面に付いている。イヤフォンを使わずに、内容が確認できるので、何かと便利。

単4電池2本で駆動できる。バッテリー内蔵タイプは劣化したら、本体ごと破棄するしかないが、電池式なら本体が壊れるまで使える。また電池2本仕様は、開発をする立場からすると安心感がある。ボイスレコーダーでは電池1本仕様というものも多いが、ICを駆動するにもコンデンサーマイクを駆動するにも、かなり昇圧する必要があり、いろいろ負荷がかかって、商品の寿命を縮めているように思う。実際使ってみないと何とも言えないが、2本仕様は無理がないのは明らか。

SONYもついに汎用フォーマット、汎用カードへ切り替えつつある。 独自フォーマットのATRACを捨て、一番普及しているMP3を採用している。個人的にはoggを採用してもらいたいのだが。
メモリーカードは、Memory Stick Microも使えるが、マイクロSDカードも使えるのでセーフ。

録音データをPCに取り込むことが可能。USB端子があるので、ケーブルも不要で、簡単に出し入れができる。またマイクロSDカードも使えるので、何かとPCとの親和性は高い。

とりあえずステレオ。歌の録音だからモノラルでもいいのだが、音の悪さをフォローするにはステレオは都合がよい。

SONY ICD-PX440C 主な仕様

発売日2014年5月
実売価格5480円
内臓メモリ4GB
microSDカード(~2GB)、microSDHCカード(4~32GB)対応

録音フォーマット 内臓メモリに録音可能時間
MP3 192kbps(stereo 44100Hz CBR固定ビットレート) 44時間40分
MP3 128kbps(stereo 44100Hz CBR固定ビットレート) 67時間5分
MP3 48kbps(mono 44100Hz CBR固定ビットレート) 178時間
MP3 8kbps(mono 11025Hz CBR固定ビットレート) 1073時間

再生スピード調整(DPC) 2~0.5倍
内蔵マイク ステレオ エレクトレット方式 無指向性だと思われる
スピーカー 直径28mm 出力300mW
外部入力端子 プラグインパワー対応
USB端子
電源 単4形2本
外形寸法 約37.2 mm×113.2 mm×19.3 mm
質量 約75g(電池含む)
付属品 電池、説明書、スタートガイド、保証書など

到着したのでいじってみる

パッケージは過剰さもなく普通でいい。イヤフォンやメモリーカードは付属しない。

オーソドックスな外観とサイズ。変にデザインにこだわってなく無理がないので好印象。スピーカーが前面についているのもよい。このスピーカーは300mW 径28mmあり、ボイスレコーダーとしては立派なもの。内容の確認であれば問題なく使える。

裏面にはUSB端子を出すためのスライダーと電池蓋がある。外装にはネジは見当たらないが、電池蓋内にネジを2本確認できた。でも爪でがっちり固定されているようなので、分解を拒む構造だと思われる。

本体おしりにはUSB端子が見える。

USB端子を出してみたところ。PC直結でデータ転送でき、使い勝手はよい。

外装は基本的に黒の塗装レスで剥げたりすこともないので歓迎だが、マイク部分はめっき処理(塗装?)されている。エッジ部分なので使っていると剥げてくるのは明らか。見た目重視で銀色にしたのだろうけど、使い込むと返ってみすぼらしくなるので、どうかと思うよ。
また価格的に仕方ないのだけど、ケース表面にシボがあることで、録音中に手が触れたときにカサカサと音が入ってしまう。光沢仕上げだと、音も入りにくくなってよいのだが。ちなみに表面のボタン周辺は光沢仕上げなので、操作中でもカサカサ音が入りにくくなっている。ついでに言うとケータイ電話に光沢仕様が多いのは、カサカサ音対策のため。

使用頻度の高い表面にあるボタンは手探りでも操作可能なように、うまく凹凸が付けられている。この辺はさすがソニーだと思う。

側面には電源&ホールドのスライドと、速度調整用のスライドがある。またストラップを取り付けられる。

反対の側面にはボイスメモ用に便利な押しボタンが並んでいる。 マイクロSDは小さすぎて頻繁に抜き差しするには向いていない。

音楽を録音する上で最も重要な設定は、マイク感度を音楽用にすることだった。 説明書によると下のようにマイク感度は5つ設定できるが、マイクマークの高中低では、コンプレッサーがはたらいてしまって、音量差がなくなってしまう。この辺の説明は一切ないので録音しながら確認してみた。

ということで音楽用の録音には、音符マークしか使えないのだが、なんと感度設定は2つしかない。自宅で録音するような場合は「高」を使うが、結構感度が低いので歌だと、かなり接近して録音しないと録音レベルは低くなる。 ライブやグランドピアノの目の前などの爆音は「低」を使う。 他に音楽で使いそうな設定はハイパスフィルターぐらい。

ちなみに下位機種の ICD-BX122 には音楽用の設定はなく、コンプ掛録音専用のようだ。 またテープレコーダーぽい操作性の ICD-LX31 は説明書に歌っている絵はあるものの、音楽とは一言も書かれていないので、同じくコンプ掛録音専用だろう。

再生用機能はボイスメモや語学学習用のものばかりで、音楽用としては、あまり役に立つものはない。 録音後に再生ボタンを押せば、最新の録音が再生される。
本体の操作性はソニーということもあって、大きな問題はない。録音再生、消去ぐらいであれば迷うことはないだろう。 表示も日本語表示で小さいながらも必要な情報は出ていて迷いはない。低価格なのに画素密度が高い贅沢な液晶が使われている。 ただ高齢者にはちょっとつらい文字サイズかもしれない。 またバックライトはないので、暗いところでの確認などはちょっと工夫が必要。

電池蓋は本体から離れないようになっている。これなら紛失することはない。また電池交換する際に時計を設定しなおす必要があると説明書にはあるが、どうも交換前の日時をメモリに記録しているようだ。数秒で交換すれば、ほとんど問題ない。

外部入力(ステレオ)/マイク入力(プラグイン対応)とヘッドフォン出力端子。電源を入れてプラグを挿すとマイクかラインかを選択するメニューが自動で出る。

各種設定は内蔵メモリに書き込んでいるようなので、電池交換の際にも失われない。


録音サンプル

音楽モードでギターを録音。距離は30cm程度。設定はシーンセレクトはオフで、MP3は192kbps、マイク感度は音楽の高。フィルター類はすべてオフ。 無指向性マイクなので部屋の反響も盛大に入っているが、周波数特性はかなりフラットなはずだ。距離による近接効果もないのでセッティングが楽。 予想していたよりもよい音。 録音レベルが低かったので、Audacityである程度上げている。目立ったノイズもないので何とか実用になりそうだ。

比較のためにマイク感度を、マイクマークのレベル中で録音してみる。上記と同じ演奏をしてみたが、コンプによって音量の強弱がなくなり、不自然な平坦な音になっている。まるでエレキギターのような音。これが普通のボイスレコーダーの音。上記とは逆に録音レベルが高いので、Audacityで下げて、上記と比較できる音量に調整している。

下図はマイク感度の「音符マーク」(上段)と「マイクマーク」(下段)の波形の違い。マイクマークだと強弱が減っているのがわかる。


プレーヤーとしても使える

メモリオーディオのようなコンパクトさを求めないなら、プレーヤーとしても十分使える。
MP3の標準的なフォーマットであれば再生可能。
ビットレート32~320kbps、可変ビットレート(VBR)対応。
サンプリング周波数は16/22.05/24/32/44.1/48 kHzが可能。

MUSICフォルダにMP3ファイルを入れて、連続再生に設定することで順次再生となり普通に音楽を聴ける。 ソングリストの最後まで再生するとストップになる。連続再生しない場合は1曲再生してストップとなる。 リピートは1曲とAB間が可能。1曲リピートするためには再生ボタンを長押しする。 またMUSICフォルダ内に新たに任意のフォルダを追加して管理もできる。 個人的にはフォルダごとに再生できるのが気に入った。プレーヤーとして使っても問題を感じない。 実際 Trancsend MP350 に比べても、フォルダ管理などはかえって使いやすいと思っている。

オートパワーオフがあり、再生後もほっとけば電源が自動で切れるので便利。 設定は、きめ細かく5分,10分,30分,60分,オフと設定できる。

音質はウォークマンと比較すると、低音域の輪郭がややボケるという印象。ただ、それほど不満な音ではなく、屋外でのリスニングでは気にならないレベル。

スピーカーも便利で、他の人に確認程度に曲を聴かせる時には十分使える。

まとめ

マイク感度の「音楽」が使えなかったら即ヤフオク行きだったが、コンプレッサーがオフにできるボイスレコーダでよかった。この下の機種は音楽録音に向いていないし、この上の機種になると一気に2倍以上の価格になってしまう。そういう意味ではコストパフォーマンスが高い機種といえる。
リニアPCMレコーダーのZOOM H1と比較すれば、ボイスレコーダーのICD-PX440CはWAV録音できないとか、録音レベルの設定がアバウトすぎるとか多少の不満はあるものの、何とかその代わりはつとまりそうだ。意外と気に入った。


その後 161015

紛失したTASCAM DR-40が無事見つかったので、このICD-PX440Cは自分で使うことにした。

また候補だったZOOM H1も、その後入手したのだが、ちゃちな作りに閉口。音質はそれなりで、録音レベルも普通に調整できたのだが、操作感触の気持ち悪さなどから、すぐに手放してしまった。 ということでSONYプロダクトの完成度の高さを実感した結果となった。

リスニング用に使用していたWALKMAN NW-E044は、バッテリー劣化で使えなくなった。そこでICD-PX440Cをプレーヤーとしても利用し始める。乾電池2個使用なので、すごく電池持ちがよくて、なかなかよいかもしれない。サイズ的に比較すれば大きいが、昔のカセットと比べれば、十分小型なので不満はない。

この機種の不満箇所といえば、やはり録音ボリュームがマニュアルで設定できないところ。それ以外は概ね満足。

2016年10月に、この後継機種であるICD-PX470Fが発売される。WAV録音も出来るようになり、ラジオが付いたそうだ。肝心の録音レベルの調整はできるのだろうか? 説明書を見ると相変わらず詳細なレベル調整はできないようだ。残念。