ダイナミックマイク SHURE Beta57A

ヤフオクにはSHUREマイクの偽物だらけ

多くは写真だけで判別できるほどの明らかな偽物だが、本物だと思って買う人が後を絶たないようだ。偽物が出回っていることを知らないのかな? 本物保証とか言っているものほど偽物なので注意。またSHUREだけでなくSENNHEISERも偽物がヤフオクで出回っている。

そんな中でリスキーながらも本物っぽく見えたBeta57Aが安く出品されていたので気楽に入札してみた。 他の入札者は偽物と思ったのか、あまり競り合うこともなく、マイクの必要性がないのに結果的に落札してしまった。 価格は正規品の1/6ぐらい。しかも明らかな偽物よりも安かった。状態は新品で付属品もある。たぶん売れ残り品。これが本物なら、かなりお得でラッキー。偽物だったとしても許せる価格なので、まぁOK。

Beta57Aの明らかな偽物の特徴

一番わかりやすいのはプレート周辺のバランスが違う。本物はプレートの上下の隙間が同じぐらいだけど、偽物はかなり違う。 またグリル周辺が本物とは違うものが多い。グリル内のスポンジは雑。本体色やゴムの色味が違うなど。

届いたので、本物かどうかチェックしてみる

取引もスムーズで出品者に問題なし。過去にSHUREマイクをたくさん売っている履歴もないし、中国から発送ということもない。中国発送とか、新規であれば、偽物と考えていいと思う。

まずはパッケージ。写真は2タイプあるようだが、これは斜めの写真のパッケージ。

箱の構造はSM57,58と全く同じで、材質も同じに見える。



側面にはヒビノのシールがある。これってSHUREの正規販売代理店なので、本物率が一気にアップ。わざわざヒビノのシールまでコピーするとは思えないので。ただ箱だけ本物ということもあるので注意が必要か。

次に肝心の本体。外観は本物と同じにしか見えない。ラベルの配置や色、形など本物との違いは見当たらない。しかも新品。

ラベルも本物にしか見えない。

重量は275gで本物の重量。偽物の多くはかなり軽いようだ。ただ本物に近い重量の偽物もあるようだ。

コネクタにもSHUREのロゴが刻印されている。

接点は金めっき。

穴は3つ。最近のBeta57Aは簡略化されて2個のようだが、ちょっと前までは3つ。お尻の長穴はXLRコネクターメスをロックするための穴で、ビスが見える穴は、マイク側のXLR側コネクタを固定するためのもの。中央の穴は、普通に考えると抜き差しするときの空気抜け用だと思うが、最近のものは省略されていることから、あまり意味がないかもしれない。

グリル。青いゴムリングは、マイクを置いたときのショック音をやわらげるためだろう。偽物は、この青の彩度が高い。

グリルを取った状態。FKとスタンプが押されているが、fakeの略じゃないよな?(笑)

カプセルも本物ぽい。それにしてもテープで周りを包むのはやめてくれないかな? Audixも同じ構造でテープ。 グリルは所有しているSM58と交換できる。偽物の多くは互換性はなく、ちゃんとはめることは出来ない。

グリルの内側にはシートがあるが、SM58のような分厚いものではなく、多少透ける程度の薄いものだった。これであれば、高域の特性があまり落ちない。でも吹かれに弱いのは明らか。

付属品も一通りあるので、それらも本物かどうかチェック。

マイクホルダーも所有しているSM57,58と形状は全く同じ。ロゴ部分のシボが若干違うが、ロット違い程度の差。これは間違いなくSHUREのホルダー。



ケーブルストラップも全く同じ。差異は認められなかった。

ポーチは、中央に SHURE BETA とロゴがある。これも本物だろう。

内部の質感も本物と同じ。

所有しているSM57,58と同じ質感とサイズ。

音はどうだろうか? 音は客観的評価が難しいのだが、明らかなのは感度。Beta57Aは-51dBと結構高い。SM57,58と比較しても高出力であることが確認できた。数値的にはSM57の公式スペックがバラバラなのでやりにくいのだが、1000Hzで測定したら、公式スペック以上の差が認められた。確実に4dB以上感度は高い。

音質は、主観的な評価なので当てにならないが、SM57よりも高域は伸びているように聴こえる。チャープ音を録音してもスペックに近い。

ハンドリングノイズもSM57,58と同じで、非常に少なく優秀。

ということで本物としか思えない。これで偽物だったら、かなりのレベルの偽物であって、作ったメーカーは、もはや偽SHUREで売らずに、自分のブランドを付けて、真っ向勝負すべきだろう。


Beta57Aの特徴について

Beta57AはBeta58Aと共に1989年から発売が開始されたようだ。現在2015年なので、すでに26年間販売されていることになる。SM57,58には及ばないが結構なロングセラーだ。

Beta57A 主な仕様
型:ダイナミック型(ムービングコイル方式)
周波数特性:50 ~ 16000Hz
指向特性:スーパーカーディオイド (超指向性)
出力インピーダンス:EIA定格150Ω(実効値290Ω)
感度:51dBV/Pa (2.8 mV) 1Pa = 94dB SPL
極性:1pin GND, 2pin HOT, 3pin COLD
コネクター:XLR(male)
ケース:シルバーブルーエナメル塗装ダイカスト メタルボディ
つや消しメッシュグリル(鉄製)
サイズ:径43mm、長さ160mm
重量 275g
付属品:ホルダー、変換ネジ、保管用バッグ
生産国:メキシコ


所有しているSM57,58は、単一指向なのに対して、Beta57Aは超単一指向性で、音を拾う範囲が狭い。実際SM57,58で困っているわけではないのだが、音源だけを録音するには好都合で、環境のノイズが入りにくいのは歓迎。とくにギターのアルペジオなどは、Beta57Aはいいかもしれない。

SM57,58は15kHzまでだが、Beta57Aは16kHzまで録れる。実際に使ってみると、高音域はすっきりと伸びている印象で、高域が行き詰った印象のSM58とはかなり違う。 ただ音質はそれほど滑らかではなく、ややザラついた印象はある。この辺はダイナミックマイクの限界を感じてしまう。滑らかな高域を録りたかったら、コンデンサーしかないと思った。よく聴くと高域は誇張されているかもしれない。また近接効果は指向性から来ると思われるが、SM57,58ほど低音が盛り上がらない印象。SM57,58だと低音のふくらみを嫌って結構離して録音することも多いのだが、Beta57Aはもう少し近づけても問題ないようだ。この辺のことはグラフからはわからない。

回路図。SM57,58と同じようにトランスがある。

Beta57Aは感度が非常に高い。SM57,58と比較しても4dB(1.6倍)以上高く、他社と比べても、プロ用ダイナミックマイクの中ではトップクラスの感度。ノイズも少ないので、小さい音を録音するには好都合だ。それでも当たり前だがDCバイアス方式のコンデンサーマイクには遠く及ばない。およそ10倍ぐらいの差はある。
またBeta58Aとはカプセルは同じだが、出力が違う。それはマイク先端とカプセルの位置がわずかにBeta57Aの方が短いから。shureの測定はマイク先端からの距離が基準になっている。
下表は主なダイナミックマイクの出力。Audixは同じOMシリーズでもモデルによって感度がバラバラ。全体的に感度低めのAudixだが、特にOM7は極端に低く、アマチュアでは使いこなせないだろう。

主なダイナミックマイクの感度 1Pa(94dB SPL) 1kHzを与えたときの出力電圧

dB表示のマイクの場合は、以下の計算式で変換した。
x = マイク感度(dB)
P2 = 出力電圧
P2 = 10^(x/20)
メーカー 型番 感度(電圧)
audio-technica AT4021 (コンデンサマイク 参考) 20mV
audio-technica AT4050 (コンデンサマイク 参考) 15.8mV
audio-technica BP40 3.9mV
EV N/D767a 3.1mV
shure BETA57A 2.8mV
SENNHEISER e935 2.8mV
SENNHEISER e835 2.7mV
shure BETA58A 2.6mV
AKG D7, D5 2.6mV
audix OM5 2.0mV
SENNHEISER MD421, e945 2.0mV
shure SM58, SM57(new) 1.88mV
audio-technica AE6100 1.8mV
shure SM57(old) 1.6mV
audix OM3, i5 1.6mV
audix OM6 1.5mV
shure SM7B 1.12mV
audix OM7 0.8mV

Beta58Aというボーカル用マイクがあるが、Beta57Aとの違いは何だろう? カプセルは完全に共通で、本体部分の違いはラベルぐらい。そうなると、グリルだけの違いかもしれない。Beta57AにSM58のグリルをつければ、ほとんどBeta58Aと同じということか? ちなみにSoundHouseではBeta58Aが2000円高い。


結局のところ

Beta57Aの用途はSM57とかぶる。 おそらくギターの録音で使うことになるが、繊細な演奏の録音なら、Beta57Aの指向性、高域特性、感度のよさを生かせそう。特に環境ノイズから分離しやすい指向性は強み。 音量が稼げるストロークだったら、どのマイクでもOKだけど。

歌の録音でもBeta57Aを使うのはあり。実際プロもライブなどでよく使っている。 SM58のようなこもり方をしないので、すっきりした音になりやすいと思う。 ただ、やや癖のあるザラついた高域は好みが別れそうだ。