トランジスタ増幅回路1
部品について

簡単なトランジスタ増幅回路をブレッドボード上に組んで実験&勉強してみようと思う。 具体的にはダイナミックマイクの信号を、増幅するマイクプリアンプの範囲に絞るつもり。 使用部品は、増幅の要であるトランジスタ、そして抵抗器、コンデンサぐらい。他には電源である乾電池や、配線するためのブレッドボード、電線など。 組んだプリアンプはダイナミックマイクと接続し、オーディオインターフェイスを介してPCで録音し評価する。

常時使用する工具はピンセット、チェック用のテスタぐらいだろうか。 他には入出力用ワイヤの先端加工に、はんだごて、ニッパーぐらいは使うが、一度作ってしまえばもう必要はない。

今回は使用する部品などについて、簡単に紹介。


バイポーラトランジスタ NPN (Bipolar junction transistor)

大きく分けて N-P-NP-N-P の2種類の接合構造がある。ここでは代表的な東芝 2SC1815(NPN)を主に使う。すでに生産終了しているようだが、昔買ったものが余っていたので使うだけ。 ちなみにPNPの型番は2SA1015

下は東芝 2SC1815の外形図。側面の絵は問題ないと思うが、その下の絵は底面から見た図なので注意。また図では3本の足はコレクタ、エミッタ、ベースとなっているが、トランジスタの記号ではベースは中央に配置されている。

JISの電気用図記号 C 0617-5 でのトランジスタ記号は以下のようなもの。 それにしてもJISのサイトはひどい。広く世の中に知らすべき規格をがんじがらめにして扱いにくくしている。 記号一つ確認するだけでも、ダウンロードしてはいけないとか、閲覧するだけでも、何度もクリックさせられイライラ。 その挙句、真っ白で何も見れないというオチ。 ということで、JISにはうんざりしたので、下記号(NPN)は本などを見て、適当に描いてみた。本でも、それぞれバランスが違っているので、JISなんて気にせず、勝手に描いているのかもしれない。 あんまり関係ないけど、このトランジスタの記号はビジュアル的に好き。Tシャツとかにしてみたい。

トランジスタは電流電圧の増幅しかできない単機能の素子。 一方オペアンプを含むICは内部にトランジスタを複数使って、あらかじめ設計されたもので、 高機能で便利な半面、基礎的な勉強には向いていないと思う。

トランジスタの増幅作用
ベースにわずかな入力電流 IB が入ってくると、コレクタからトランジスタの増幅率(hFE)に伴った電流 IC が流れ、それぞれエミッタへ流れていく。 このときベースにかかる電圧が重要で、0.6~0.7V以上でないと、ベースからエミッタへ流れることができない。 逆にいうとベース、エミッタ間の電圧降下は、シリコンダイオードと同じ順方向電圧降下で0.6~0.7Vある。 シリコンで作られたトランジスタはすべて同じ電圧。 これがゲルマニウムだと0.2Vのようだが、現在は安価で温度に強いシリコンが主流。 ゲルマニウムは80度ぐらいまでだが、シリコンは180度ぐらいまで耐えられる。 さらに実際には信号の大きさや、その他のことを考えると2V程度とる必要があり、それを増幅する関係から、電源の電圧はある程度高い必要がある。

実際の回路では、トランジスタ固有の増幅率hFEではなく、抵抗で決めた増幅率を使う場合が多い。トランジスタの増幅率は個体差が大きく、現在においてもかなりのバラつきがあり、そういう流れになったのだと思う。 2SC1815の場合、このバラつきはランクとして分けられている。
O(オレンジ): 70~140
Y(イエロー): 120~240
GR(グリーン): 200~400
BL(ブルー): 350~700
各数字は増幅率hFEで、誤差とは言えないぐらいの差がある。 同じランク内でさえ最大2倍の差があり、 OとBLの最大差はなんと10倍もある。 それだけトランジスタの製造は難しいということだろう。 ちなみに上写真の2SC1815はGRランク。


抵抗器(resistor)

電気を通しにくくするためのもの。なんでこんなものが必要なのかというと、電圧、電流などをコントロールするため。 電圧をコントロールすることで、トランジスタの増幅率なども設定できる。 抵抗値は22、33、47など中途半端な数字が並ぶ。これは等比級数で分割したからのようだ。12分割のE12や24分割のE12が一般的。

E12の場合
10,12,15,18,22,27,33,39,47,56,68,82,100,120,150・・・

E24の場合
10,11,12,13,15,16,18,10,22,24,27,30,33,36,39,43,47,51,56,62,68,75,82,91,100,110,120・・・

という具合。対数的にキレイに並んでいるので、パーセントで設計する場合には都合が良い。
抵抗器の種類はたくさんあるが、ここでは弱電なので、固定抵抗器のカーボンや金属皮膜を使う。

カーボン(炭素皮膜)は汎用抵抗器で安価。精度は±5%程度。音響部品としてはノイズの面で高性能とは言えない。温度が上がると抵抗値は下がってしまう。


金属皮膜は音響關係に使われていて、精度もカーボンよりは高く±1%以下も入手可能。電流雑音も少ない。こちらは温度が上がると抵抗値が増えていく。カーボンとの見分け方としては、ベースの色が青っぽいものが金属皮膜であることが多い。


抵抗器の単位はΩ(オーム)で、必要に応じて、k(キロ(kは小文字))、M(メガ)の接頭辞が使われる。 カーボンや金属皮膜の抵抗器はカラーコードで、抵抗値が表記されているが、こんなの覚えてられないので個人的にはテスタで測って値を見ている。あとは袋に入れて分別している。 そもそも何でカラーコードなんて使っているのかというと、小さい部品だから数値を書けなかったという理由があるらしい。現在の技術だったら書けないこともないだろうけど、もう定着してしまったので、カラーコードが使われ続けているのだろう。

記号は以下のように変わった。以前はギザギザマークだったけど、単なる長方形になってしまった。 まぁこちらの方が描きやすいけど。



コンデンサ(capacitor、condenser)

コンデンサは電気を蓄えたり放出したりする受動素子。 これを利用することで、交流を通すが直流を通さないという使い方もできる。 ここで作る増幅回路では、主に直流成分をカットするためのカップリングコンデンサとして利用。 コンデンサは種類も多く形状も様々だが、 カップリングコンデンサとしては、容量の小さいものしか使わないので、 安価なセラミックコンデンサ、フィルムコンデンサを使用する。 これらの種類のコンデンサには極性がないので、プラスマイナスを気にする必要はない。

コンデンサーは音に与える影響は大きい。 特にカップリングコンデンサーは、交流を通すといっても、信号が素通りするわけでなく、 伝言ゲームのように間接的に伝わっていく。 そのため確実に音が劣化するし、コンデンサの特性が出やすい。

コンデンサの単位はF(ファラド)で、主に、μ(マイクロ)、p(ピコ)の接頭辞が使われる。たまにn(ナノ)も使われたりして間違いやすい。さらに本体に数字が書かれているのだが、その読み方は統一されているようで、そうでもなかったりする。
記号は以下を使う。極性があるコンデンサの場合は、+を書く。



乾電池9V 006P型

音を中心に扱うつもりなので、ノイズで悩まされることのない乾電池にした。 またトランジスタを扱うため、電圧はある程度ほしいので9Vを選定。

9Vの中身は1.5Vのセルを6個直列につないだもの。分解すると以下のような構造になっている。昔から9Vは高価な割にすぐに使えなくなって不満だったが、この構造を見れば当然だわ。 1セル当たりの容量はすごく少ないし、セルの数から内部抵抗も大きいだろう。また6つのセルのうち、一つでもおかしくなったら、まともに機能しなくなるのは明らか。 また電極も同じ向きにプラスとマイナスがあって、不思議だったけど、わざわざ金具で引っ張ってきていたのね。手間のかかる構造で、高くなってしまうわけだ。 無駄が多くて、性能も悪いけど、高いという。あまり感心できない9Vだわ。

そんなことで、昔から高性能な10V程度の乾電池は望まれていると思うのだが、何十年経っても事態は変わっていないのね。この手の技術の進歩は遅いなぁ。 現状ではリチウムの3.3Vが有望なのだろうけど、もう少し高電圧だとありがたい。

記号は以下を使う。長いほうがプラス。



ブレッドボード(solderless breadboard)

ブレッドボードの穴に上記パーツや下写真にあるようなジャンパーワイヤーを差し込むだけで簡単に回路の実験ができる。 抜き差し自由なので回路の変更が簡単。



次回は上記を使った増幅回路の設計をしてみようと思う。
>>トランジスタ増幅回路2