ダイレクトボックス自作(パッシブ)

機材の関係からエレキベースをマイク端子に直結したくなり、ダイレクトボックスを自作してみた。

ダイレクト・ボックスとは

ダイレクト・ボックス(Direct Injection Box、DI) とは、エレキギターやエレキベースをミキサーにダイレクトに入力するための中継ボックスで、ギター等の高インピーダンスを、低インピーダンスに変換し、なおかつバランス伝送するためのもの。低インピーダンスに変換できれば、マイク入力等に直接挿すことが可能になる。

もともとギターやベースはアンプから音を出して、それをマイクで録音するという方法が主流だった。ただベースに関しては、よりクリアな音を求め、アンプを介さずに直接コンソールに入力するケースも多い。レコーディングだけでなく、ライブなどでも同じようにベースはアンプを使わずに、DI経由でPAから直接音を出すことも多い。

ロー出しハイ受け

音響機器の接続では、基本的に「ロー出しハイ受け」と言って、入出力インピーダンスを考慮する必要がある。 業務機器のマイク入力(XLRバランス)の場合、多くは2kΩ前後の入力インピーダンスを持つ。 マイクの出力インピーダンスはSM58のようなダイナミックマイクの場合は150~300Ωぐらい。 その差は10倍近くあり、ちゃんとロー出しハイ受けになっている。比にすると1:10というところ。
エレキベースの出力インピーダンスは、パッシブタイプでは回路込みで250k~500kΩぐらい。 アンプの入力インピーダンスは1MΩはある。これもロー出しハイ受けを守っている。少なくとも1:2ぐらいは確保されている。
しかし、ベースを直接ミキサーなどに挿した場合、マイク入力、ライン入力共に、ハイ出しロー受けになってしまうため、周波数特性が大きく崩れてしまう問題がある。ライン入力の場合は明らかな出力不足になる。これを解決するのがDI。

ちなみに昔のマイクの出力インピーダンスは600Ωで入力も600Ωとしてインピーダンスマッチングを取っていた。電力的には最大になり、もっとも効率がよいとされている。しかし現在はロー出しハイ受けが主流。これは受ける電圧を最大にしたいから。マッチングを取ると電力は最大でも電圧は出力側の1/2になってしまう。 最近はFETなどで受けるので、事情が変わり、電圧を最大限受けたいというわけ。入力インピーダンスを高くすれば高いほど受けれる電圧は出力側と同等になってくる。 ただ、あまりに入力インピーダンスが高すぎると別の問題が出てきそう。実際には数倍から10倍前後が適当ではないだろうか。インピーダンスのバランスの傾向としては1:1のマッチングをとった場合は野太い音で高域少な目という感じで、1:10になると、高域がかなり出てくる。それ以上だと、こんどは低域が物足りなくなってくるという感じだろうか。経験的には・・・

工作 トランス選定

今回エレキベースの250k~500kΩはあると思われる出力インピーダンスをマイク入力(2k)に入れるとなると、そのままでは、 およそ125~250:1となって、お話にならない。実際に直結して試してみたら、音量的には問題ないのだが、音質的にはこもってしまい、使える音ではなかった。 ということで、かなりインピーダンスを落とす必要がある。 周波数特性の良い、まともなインピーダンス変換をするならFETなどのアクティブでないと無理なのだが、まずは簡単&安価なトランスで試したい。

そこで、実際のDIで使うトランスを調べてみた。LUNDAHL LL1530というものがあり、これはDI用のトランスらしい。価格は1万円を超える。この巻き数比は最大利用で7:1(10kΩ:200Ω)なので、同じような計算をすると約100kΩ程度となり、これでもマッチングは取れているとは言えない。 ロー出しハイ受けになるまで、巻き数比を上げて行くと、今度は出力電圧が下がりすぎてしまう。 こうなるとマイクプリでも増幅しきれなくなる恐れがある。また増幅分マイクプリのノイズも上がることになるので、どこかで折り合いをつける必要がある。割と高価なトランスなので理想的な巻き数比を選択しているはず。おそらく、この辺が妥協点なのだろう。

LUNDAHLは高すぎるので、安価なサンスイのトランスから選ぶことにした。 2次側がLUNDAHLと同じように200Ω程度のものは巻数比がイマイチだったので、巻数比からST-75となった。 1次が10kΩ、2次が600Ωで、巻き数比が4.15:1なので、4.15^2=17.2225となり、インピーダンス比が17:1となる。 マイク入力のインピーダンスが約2kΩなので、入力側のインピーダンスは17倍の34kΩとなる。 出力電圧は巻き数比に比例するので1/4.15倍となり、まぁ許容範囲だろう。 ギター側が250kΩのインピーダンスと仮定すると、 まだハイ出し、ロー受け状態。

とりあえずベース用ということで、高い周波数が削れても大きな問題はないため、まずはサンスイST-75で試してみることにした。 周波数特性もそれほど良いトランスではないので、低域も削られる方向となる。ベース用としてはまずいんじゃない?という気もするが・・・

SANSUI ST-75 仕様

購入価格 570円 160821
インピーダンス一次 10kΩ
インピーダンス二次 600Ω
直流抵抗一次 420Ω
直流抵抗二次 21Ω
巻数比 4.15:1
形状 Eコア
質量 13g



サイコロのように小さいトランス。

回路図はこんな感じ。アンバランスをトランスでバランスに変換して出力しているだけ。トランスの比で約1/17にインピーダンスを落としている仕組み。XLRの1はGND、2はHOT、3はCOLD。 GNDの配線は結構悩むところだが、ベースのGNDと接続しないとノイズが出るので、つなげている。市販品だとグランドリフトさせて切り離せるようになっている。自宅で使う分には問題ないということで、COLDとGNDをつなげている。センタータップには何もしていない。

適当なケースに納めてみた。トランスは振動を拾うので、IC用のスポンジを下に敷いてみた。

蓋を閉めたところ。フォーン部分の強度がやや不足だが、つなぎっぱなしにするので大きな問題はなし。


音を出してみたら思ったほど悪くない。トランスの特性からか軽めで低音不足を感じるが、録音後の補正でなんとかなるレベルなので、今回の用途では問題ない。 補正なしで満足行く音にしたい場合は、アクティブ回路を入れるなどの細工が必要になるが、そうでない場合はトランスだけでも使えるという感じ。

下のサンプルはダイレクトで補正なし。ベースはYAMAHA RBX-270でパッシブベース。


Focusrite 2i2のHi入力(エレキギター、ベース用入力)と比較すると、インピーダンスの関係で高域不足になっているが、こもるという感じでもない。結局ベースなので気にならないレベル。ギターだと高域不足は不満かもしれない。

また、このDI経由でライン入力(10KΩ)にも挿してみた。比では1.7:1となり、インピーダンス的にはよい方向。音を聞いてみると音色的にはほとんど同じ。問題はラインレベルではあまりゲインを上げられないところにあった。最大にしても音量不足となってしまった。ゲインを上げるとアンプノイズが乗ってくるので、やはり増幅率が高いマイク入力に入れた方が良いという結論。

トランスをコツコツ叩いてみる。そのままの音が入る。 ACアダプタにトランスを近づけてみる。ハムのような音が入ってくる。 音叉を近づけてみると、440Hzがキレイに入ってくる。 ということでトランス式は環境の影響を受けやすいので、置く場所は重要。

使い勝手

パッシブで電池不要なので、基本的につなぎっぱなしにしておける。 回路もコンパクト&シンプルなのも魅力。 宅録でたまに録音する程度なら、わりと実用的かもしれない。 実はパッシブを作る前にFETを利用したアクティブも自作を検討していたのだが、この安価なパッシブで十分という結論。


アコギ用にFET増幅回路を試す 171217更新

ベース用としては特に不満はなかったのだが、アコギ用ピックアップ(Fishmanパッシブ)を手に入れたので、つないでみたら、ピックアップ出力が低く、音量が不足気味となった。出力電圧を測ってみると、ベースは10~20mAぐらいだが、アコギピックアップは、1mA程度と1/10以下という結果。UH-7000のマイク入力レベルを最大にして、ちょうどよいぐらい。あまり増幅できないマイクプリだと明らかに音量不足になってしまう。

下サンプルはアコギをマイク入力最大(+60dB)にして録音したもの。UH-7000はローノイズだから許せる感じだが、これが他の安価なマイクプリだったら、結構悲惨だと思う。


そこで簡易的にFETで増幅回路を作ってみたのだが、高域はしっかり出ているのだが、やや耳につくという感じ。音色が気に入るまで調整するとなると、時間がかかりそうだわ。 FETと比較するとトランスはインピーダンスマッチングが出来ていないこともあり、ややこもりがち。でも不思議と悪くはないのだな。 ということで、FETを利用したDIは、今後じっくり実験してみようかと思う。

とりあえず自宅で使う場合は、アコギもこのトランスDIで十分と判断。ただ自宅でアコギにDIを使う必要はないのだが・・・

たまたま入手することになったアコギ用プリアンプを試す。モデリングで自然な音を目指しているらしい。メーカーは伏せておくが、使ってみてダメだと判断し、すぐ売却した。問題はモデリング技術。どうしてもデジタル処理となるので、音の遅れが出てしまう。それをごまかすために、原音とのミックスがあるのだが、どうにも立ち上がりが緩やか。録音して波形を見ても、明らかに緩やかな立ち上がり。これは使えない。というか、こういうのを使うと、演奏に悪影響が出ると思う。デジタル処理は便利だがリアルタイム性が犠牲となっているので、使わない方が無難。


アコースティックギター用にアクティブDIも作ってみた 181021更新

FETと上記トランスを組み合わせて、利得のあるDIを作ってみた。 記事はこっち